精彩を欠くストックオプション制度
株価が安い時に、または上場前に会社が購入しておいた
自社株(金庫株)を優秀な社員に付与し、
会社の業績向上によって株価が上昇した時に権利を行使し、
株式を売ってキャピタルゲインを得るというのは、
会社が上り調子で成長を続けている時には
大変有効なインセンティブプランです。
2000年分の高額納税者では、上位100人のうち
ストックオプション長者が前年の1人から10人に増えました。
外資企業に勤める普通のOLが、ストックオプションを行使して、
億ションを手に入れたという話もあります。
しかしITベンチャー企業の繁栄もピークを過ぎ、
長引く景気の低迷で株価は低水準を維持したまま…、
インセンティブプランとしてのストックオプション
(これをインセンティブストックオプション、ISOと言うこともあります。)
は、その魅力を失いつつあるのです。
米国でも2000年初めをピークに、ハイテク企業の株価は下降し
現在も低迷を続けています。
3軒に1軒の家庭がストックオプションを保有すると言われた
シリコンバレーのオプショネア(ストックオプション成金)、
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マイクロソフト創立当初の株をピークの前にオプション行使し
売却したマイクロソフトミリオネア、
入社のタイミングが悪かったばっかりに、「勝ち組」の隣で
働かなければならない大量の「負け組」…
オプションを行使しても儲けが出ないアンダーウォーターの
状態が続く現状で、様々なあつれきが生じています。
かつては多くのアメリカ人の憧れであったハイテク産業ですが、
夢がしぼんだ今、新たな段階への模索が始まっています。
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エンジニア以外の、いわゆるマーケティングガイと言われる人達は
ハイテク産業を去り、残るのはコアなエンジニア達。
結果、草創期のような技術重視路線へと回帰が進んでいます。
一方オプショネアとなった人達は投資先を求めて、
かつての同僚にスピンアウトを促す事もあるでしょう。
そうなると、草創期のような起業ブームが再び起き、
ハイテク産業がまた輝きを取り戻すかもしれません。
※スピンアウトとは、現在勤めている会社からノウハウと
アイデアを持ったまま飛び出して自分の会社を設立すること、
また企業内の事業部門や事業シーズ(事業化されずに
埋もれている研究成果やアイデアなど)を切り離し独立することです。
※スピンアウトが親会社との関係を絶ちたいと思うのに対し、
スピンオフとは、親会社との係わりを持ち続け、その経営資源を
最大限に活用しながら事業展開を進めていこうという手法です。
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またストックオプション売却益は、原則として給与所得とすると
税法上定められていますが、これに関しては、
国税当局の判断が一時揺らいだため、多くの訴訟が起こりました。
海外企業が、日本の子会社の社員に付与した
ストックオプションで得た利益は、課税当局は1998年分までは、
税額が給与所得の約半分になる一時所得と認めていたのに、
その後国税当局が、給与所得に統一するよう指導を始めたためです。
方針変更の際に法律が作られるべきだったのにそれも無く、
方針変更前に遡って約2倍の税金を納めることになった
当事者たちの大きな不満を買っています。
※現在、税制適格に見合うように付与される
(無償発行)ケースがほとんどですが、
税制上の優遇措置が受けられないと、
オプションを行使した時点(株式を購入しただけで
まだ売っていない段階)でも所得税と住民税がかかります。
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そしてストックオプションの魅力が薄れるもう一つの大きな要素が、
経費参入が義務づけられるかもしれないということです。
今までストックオプションを無償給付した際に、
オフバランスされていたものをオンバランスにするという変更です。
※オフバランスとは、事業運営に活用している資産・負債であっても、
貸借対照表(バランスシート)には計上されない状態のことです。
会計上のリスクが存在する取引をバランスシートの外に
出すことで、企業価値を高めることができます。
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現在の会計制度では、
ストックオプションをどれだけたくさん発行しても
人件費として計上する必要はないので、
利益を大きく見せることができるのです。
しかし米国でも、長引く株価低迷で年金基金などの大口投資家らが
この会計システムを強く批判し、2001年のエンロン事件で、
一部の役員らが所持していた多数のオプションを
株価破綻前に売り抜けたこともこれに拍車をかけました。
考えてみれば、企業価値を正しく判断するには、
ストックオプションを人件費としてバランスシート
に計上するのは、至極当然のことかもしれません。
財務内容は透明さを増しますが、
企業の利益は減って見えることになり、
株価にも影響が出てくるでしょう。
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